線香花火の話

見ましたか今年のM-1

本当に久しぶりに、すばらしい気持ちになったんです!


ちょっと長い話になるけどいいですか。

私は、音楽が好きになるよりも、映画や他のものが好きになるよりも、何よりも先に好きになったのはお笑いでした。中学生のころです。きっと世の中的にもお笑いが流行ってたんだと思います。オンエアバトルのような、ネタがしっかり見れる番組もたくさんやっていました。好きなネタはビデオテープで何回も何回も見て、文字に書き起こしたり、ダイアルアップ回線の時代に芸人さんのファンサイトの管理人をやっていました。元からクソミーハーなので、当時もいろんな芸人さんが好きでしたが「線香花火」っていう漫才コンビもとても好きでした。今はピースで活動している又吉さんが昔組んでたコンビです。又吉さんは当時、髪が短くて、喋り方はもっと暗くて、体型もガリガリで、そのころから死神って呼ばれてたと思います。相方の原さんは対照的にすごく明るくてハキハキして太っ腹で、昔ながらの芸人さんという感じ。2人とも超イケメン。バリバリの大阪弁なのにどこか東京の感じがする漫才で、いつもスーツでかっこよくてスタイリッシュでした。又吉さんがネタを飛ばして原さんがそれ突っ込んで又吉さんが照れ笑いする、みたいな、仲良いのがわかって、それも好きでした。池袋のイベントに行ったとき「青い春って映画に僕ら出てるんですよ」「シンナー中毒の役なのに、君(又吉)はノーメイクでいいって言われた」という話をしていて、すぐさま「青い春」を見ました。そう!若き頃の松田龍平新井浩文が出ている、あの!青い春です。それを見た私は、冒頭のミッシェルガンエレファントにぶちのめされ、松田龍平に惚れ、先生、咲かない花もあるんじゃないですか?・・・思春期の自分にとって、なにもかもがショッキングで、かっこよくて刺激的で、控えめに言って最高。(線香花火が出ているシーンはとても短いですが、観る機会があれば気にして見てみてください)松田龍平が演じた主人公は「九條」という名前で、つまり、私が15年くらい使っているこの「くじょー」というハンドルネームはここから来てるわけで。そこから流れるように映画も音楽もたくさん、いろんな人とも出会うことができました。きっと線香花火を好きじゃなかったら、ここにはいなかったですし、たどり着いていません。ありがとう、と、線香花火の2人には勝手に感謝しています。で、話を最初に戻しますね。


今年のM-1が素晴らしかったという話。

何が素晴らしかったって「あのとろサーモンが優勝したこと」です。一昨年(M-1が復活した年)クソ寒いヒルズアリーナまで行って敗者復活戦を見に行きました。結果はトレンディエンジェルが勝ち上がって優勝したんですが、トレンディと同じくらいウケてたのがとろサーモンでした。毎年毎年、敗者復活戦にいて、会場ではめちゃくちゃウケてるのに勝ち上がれない。でも今年は最初から決勝の中にいて、最後の3組にも残って。どの漫才が面白いかなんて人によって違うのであれですが、私は決勝のネタ、3組とも同じくらいだなーと思ってました、でもなんとなくキャラ的に和牛が優勝すんだろうな。とろサーモンは優勝ないかなーって思ってたんです。でもフタを開けてみたら、和牛(やっぱり)とろサーモン(お!)とろサーモン(おお!)とろサーモン(えー!!)とろサーモン!!!ええーーーーーー!!!優勝。もう、めちゃくちゃ泣きました、大ファンでもないのに、ずっと応援してきたわけでもないのに、めちゃくちゃ泣きました。胸が熱くなりました。最後のネタ、とろサーモンは焼き芋のネタでした。一昨年、ヒルズアリーナでトレンディエンジェルに負けた、あのネタで勝ったんです。これめちゃくちゃ最高にかっこよくないですか! とろサーモンが今回優勝したことは、本当に面白いネタをやっている芸人さんたちの過去と未来に光をさすような、大袈裟じゃなくて、本当にそういうことなんですよ。今やってる人たちはチカラをもらえるし、過去にやっていた人たちは、やってくれた、と思うような、そういうことなんだと思うんです。リーダーと大吉先生がとろサーモンに入れていたことも、とろサーモンの後ろで笑顔ではしゃぐ川瀬名人も、麒麟の川島さんや千鳥のノブさんのツイート、あの物静かなダイアン西澤さんが裏実況で「よっしゃ!」と叫んだって話とか、もうぜーんぶ泣けました。本当に面白い漫才を、ずーーーっと続けていた人が勝てた、それを証明してくれたんです。本当におめでとうございます。芸人さんたちって、全員ライバルなのに、みんなが仲間のようなところがあって、自分はお笑いのそういうところも大好きだったんだなあって。M-1を見ていてこういう気持ちになったのは本当に久しぶりでした。


優勝後、今田さん「テレビ版ですけど、火花で売れない漫才師役で」村田さん「そうです。もうあのまま売れずに終わっていくんかなって思ったんすけども」今田さん「売れたいわー、っていうセリフありましたけど」村田さん「いや、もうあれ、本当に売れてない芸人が言った本当のセリフなんで」という、「火花」について発言するシーンがありました。


あ、私そういえば、火花のドラマ見てない。出産の年でわちゃわちゃしててスルーしてたんだ。こりゃ早く見ないといけない。で、ネットフリックスですぐさま見ました。もう!!!!これが!!!!心の底からすばらしい出来で!!!映画のようでした。10話ありますが、深夜に一気見しちゃってください。役者さんたち(本物の芸人さん)もすごく自然だったし、漫才もちゃんと面白くて、空気もカメラも最高でした。斉藤和義「空に星が綺麗」もぴったしでしたね。とくに吉祥寺、高円寺、渋谷、あたりの道を歩く姿を前から後ろから横から、長回しで撮影しているシーン、なんて贅沢なんだろうって。ほんとに。テレビドラマで作れなかったのも納得できます。ハア、5億点てこういう時に使うのかな。もう終電もなくなって、信号も意味なくて、しーんとしてて、誰かとだったり、ひとりでだったり、夜の道をどこかに向かってひたすら歩くのって、もうほぼ「人生」じゃないですか。人生のすばらしい要素がたくさん詰まってる出来事だと思うんですよね。青春ですよね。そういう夜道のシーン(「その街のこども」「最高の離婚」とかも)大好きマンなんで、たまらなかったです。この記事の最初に線香花火のことを書いたのは、この火花のドラマ版を見ていて、線香花火を思い出す瞬間が、何度も何度もあったからです。本当にあったことと、フィクションが混在してる。徳永役の林遣都さんが凄い。喋り方、目線、仕草、声、すべて又吉、もう又吉が中に入ってるんじゃないかってくらい又吉。相方役は井下好井の好井さんで、漫才も違和感なかったです、見ていて本当に線香花火の漫才を見てるみたいでした。彼らがやる白バイのネタは、線香花火で見たことがあるような気がするけど、もう遠い記憶の彼方すぎて自信がないです。線香花火オタだった人、だれかいませんか。「インコ、とんでもない知能持ってるってことやろ?」とか、ほんと、又吉さんすぎるでしょ。幼なじみでコンビ組むとか、偉い人の席に座っちゃうとか、ほかにもあの話から来てるのかなって思うようなこと、たくさんあった。「火花」って作品は一見すると、夢を追う人と挫折する人、人生、みたいな話だけど、たぶん、又吉さんが線香花火でやりたかったこと、でも出来なかったこと、ピースになった自分、そういう、過去と現在の自分の人生を肯定するような、また誰かの人生を肯定してあげるような、そういう意味があるんだと思った。小説にして自分のものじゃなくしたことで、線香花火に対して決別の意味もあるのかもしれない。ドラマの最後の方に、もう半分おかしくなってきてる神谷が「淘汰された奴等の存在って、絶対に無駄じゃないねん。一回でも舞台にたった奴は、絶対に必要やってん。これからのすべての漫才に、俺達は関わってんねん」という台詞があってね。こないだのM-1を見てて、まさにそういうことを考えてたから、神谷の言うことは今まで全部寒かったのに、この台詞にはめちゃくちゃビビビ!っと来てしまった。きっと、この台詞は又吉さん自身がだれかに言って欲しかった言葉であり、誰かに言いたかった言葉なんだろう。